宇宙の科学2  7回目  2002.5.31.

1.星の分類
夜空を見上げると、明るい星もあれば暗い星もある。赤い星もあれば青い星も ある。星をみて分かるのは明るさと色である。

<等級>
星の明るさは、最初一番明るい1等星から肉眼でぎりぎり見える6等星まで分類された。
後から機械で明るさを測ってみると、1等星と6等星の明るさの差は100倍あった。
また人間の眼の感じ方は「倍倍ゲーム」であり、2.51倍明るいと1等級明るい と感じるようである。そこで、1等星は2等星の2.51倍、2等星は3等星の2.51倍、、、、 5等星は6等星の2.51倍とした。つまり1等星は6等星の2.51の5乗倍、つまり100 倍である。
この定義により2.4等級などと小数で明るさを正確に表すことができる。 また、1.0等級より2.51倍明るいのは0.0等級、さらに2.51倍明るいのは-1.0等 級と、負の数を使って表すこともできる。全天一明るいシリウスは-1.5等級である。 太陽は-26.8等級、満月は-12.6等級、金星は最大-4.7等級である。

<星の色>
次に気付くのは、星の色である。 オリオン座の右肩の星 ベテルギウスは赤い星である。 オリオン座の左足の星 リゲルは青い星である。
星の色は表面温度を表している。赤い星は温度が低く(3000度程度)、青い星は温度が高い(1万度程度)。 太陽は黄色っぽい星で、温度は6000度である。

<本当の明るさ>
しかし星には近い星、遠い星といろいろあるので、距離が分からなければ星の 本当の明るさは分からない。 1990年頃ヒッパルコス衛星は三角測量(年周視差)によって 20853個の星の距離を10%以上の精度で求めた。

こうして星の色と本当の明るさという2つの情報が分かったので、 色をX軸に 本当の明るさをY軸にして、グラフを書いてみる。 最初にこの図を書いた人達の名前を取って、この図をヘルツシュプルング-ラッセル図、 略して HR図という。

<主系列>
すると大抵の星は左上から右下に至る線上に並ぶことが分かった。 ほとんどの星がこの系列にあるので、これを主系列という。
太陽もこの上にある。太陽は主系列のちょうど真ん中へんである。

<赤色巨星>
赤い星、つまり表面温度が低いにもかかわらず、本当の明るさが太陽の100倍 とかいう明るい星もある。 おうし座のα星 アルデバランなどがそれである。 これはつまり大きさがとても大きい星で、半径が太陽の100倍もある。 金星軌道くらいの大きさである。赤色で大きな星なので「赤色巨星」と呼ばれる。 これは星の末期の姿である。太陽もあと50億年すればこのような星になると考えられている。
水星と金星は太陽に飲み込まれてしまうであろう。 地球は飲み込まれはしないが、今の太陽の100倍の熱を至近距離から受け、 灼熱の世界と化すであろう。

<巨星化する理由>
恒星は中心部で、水素を核融合させヘリウムに変えている。 「燃えカス」であるヘリウムは星の中心にたまっていく。 この状態ではヘリウムコアの表面で水素が核融合している。 太陽の場合、100億年たつと全質量の10%がヘリウムに変わり、 中心にヘリウムのコア(芯)ができる。 これほどヘリウムがたまるとヘリウムコアの存在が無視できなくなる。 つまり、ヘリウムコアだけみると1つの星をなしているので、自分の重力で縮もうとする。
普通は星は中心で核融合を行っていて、その熱で縮もうとする重力を支えている。 しかしヘリウムコアの中には熱源がないので、自分の重力で縮んでそれによって 発生する熱で星を支えるしかない。 縮むときの熱を放出してヘリウムコアは光っている。
しかし殻状の水素燃焼層にとってみれば、自分の燃焼熱でそこより外側の層を支えていて 釣り合いがとれていたのに、中から余分に熱せられることになる。 核融合反応は温度に非常に敏感である。 ちょっと温度が上がっただけで反応が過剰になり、大量の熱を外側の層に与えるようになる。 すると外層は膨らむ。 膨らむと温度が下がる。これが赤色巨星である。

<赤色超巨星>
赤色巨星の中にはベテルギウスのように太陽の1万倍とか明るいものもある。 これは赤色超巨星と呼ばれる。 大質量星の末期であり、 内部は、シリコンの層、炭素・酸素の層、ヘリウムの層、水素の層というように たまねぎ構造になっていると考えられている。 おのおのの燃焼層で反応過剰が起こるので星が超巨大となる。 ベテルギウスは500光年も離れているにもかかわらず、ハッブル望遠鏡で直接星の形が見えている。 その大きさは太陽の1700倍もある。

<惑星状星雲>
太陽の重さの3倍以下の星の場合、赤色巨星は その後も外層の膨張が続き、惑星状星雲 となる。中心のヘリウムのコアはあるところまで収縮すると 電子の縮退圧で支えられた白色矮星となる。 1光年程度に広がった惑星状星雲、 その中心に高温の白色矮星という図式になる。

<白色矮(わい)星>
シリウスBの話
1800年代前半、シリウスの動きが蛇行していることが見つかった。 シリウスは全天一の明るさだし、肉眼で見える星のうちでは、ケンタウルス座α星についで近いので、 固有運動も良く分かるのである。 蛇行運動はシリウスが連星系で、太陽程度の重さの星と連星をなしていること を表している。(シリウスの重さは太陽の2.3倍)。 しかし太陽のような明るい星は存在しなかった。 しばらく「目に見えないなぞの星」と思われていたが、 1862年新しくできた望遠鏡によりシリウスのすぐそばに8.6等級の白い星が見 つかった。その星をシリウスBという。シリウスAは-1.5等級なので、 シリウスBはその1万分の1の明るさしかない。 温度は32000度で、シリウスAの10700度よりも高い。 温度が高いのにこんなに暗いのはなぜか? それは大きさが小さいからだ。太陽の100分の1程度しかない計算になる。 半径5400kmである。これは地球(半径6400km)程度である。 それなのに太陽の1.02倍の重さがある。
白色で小さいのでこのような星は白色矮星と呼ばれる。 実はかつての恒星の中心部(ヘリウムのコアや炭素・酸素のコア)が露出している星 であり、余熱で光っている。

その昔はシリウスBはシリウスAより明るい星であった。そのため先に進化し、 赤色巨星になって、惑星状星雲になって、白色矮星が残った。 星はめいめい勝手な方向に動いているので、そんなことはなかっただろうが (近い星なんて10万年程度で入れ替わる)、 もし当時もシリウスが近くにあったのなら、1等星の明るい二重星はきれいであったろ うし、赤色巨星は金星よりも明るい燃えるような赤い星であっただろうし、 惑星状星雲も夜空に大きく広がりきれいであったろう。
白色矮星は電子の縮退圧という力で支えられているので、温度が下がっても 縮むことはない。そのままの大きさで、100億年もたつと徐々に冷え黒色矮星にな る。

なお冬の大三角のもう1つ、こいぬ座のプロキオンにも白色矮星がある。

球状星団 というのは、宇宙の初期に一度に星が作られその後は作られていない星団である。 誕生以来100億年程度たっているので、青い星は既に死んでしまい、もはや太陽程度以 下の赤い星しかない。 M4という球状星団中には、かつての重い星の慣れの果 てである多数の白色矮星が発見されている。 恒星10万個に対し、4万個の白色矮星がある計算になる。
白色矮星はこのようにありふれた星なのである。

<中性子星>
1967年、PSR B1919+21 という電波天体から 1.337秒程度で規則正しくパルスする電波が発見された。 白色矮星であってもそんなに速く回転すると遠心力で星がばらばらになるので、 白色矮星や普通の恒星・惑星ではありえない。 予言されていた中性子星の発見であった。中性子星の半径は10kmしかない。 東京の山の手線1周くらいの大きさである。 星の磁石の北極と南極が回転軸の北極と南極とずれているため 回転により電波が発生する。 電波のビームが地球の方を向いたとき、強い電波が観測される。パルスのピークである。
回転による「発電」で電波を出しているので、回転はだんだん遅くなっている。 それでも速い回転エネルギーにより1000万年程度は電波を出し続ける。 1054年の超新星の残骸である かに星雲 の 中心にパルサーが見つかったことから星の最後の姿としての中性子星が確立された。 パルス周期は33ミリ秒である。1054年に生まれた時は19ミリ秒で回転していた と逆算されている。 (ハッブル望遠鏡による画像: 中心やや左下にある 2つの白い星の右側の方がかにパルサーである。 かにパルサーからのジェットが上下に出ていて白いかすかな円弧状の形を 作っているのがわかる。何ヶ月かたつと この円弧がさざなみのように動いているのがわかる。)

1968年にはX線でもパルサーが見つかった。 こちらは連星X線パルサーと呼ばれ、 通常の恒星と中性子星の 近接連星系 である。 通常の恒星の表面からガスをはぎとり、それが中性子星に落ちるときの 重力エネルギーの解放で光っている。 ガスは中性子星の磁極に磁力線に沿って落ちる。 磁極に落ちてきたガスは10億度以上の高温になりX線を出す。 中性子星の回転により地球からは磁極が見えたり見えなかったりするので「パルス」を示す。 (ヘルクレス座X-1の例) 実際はパルスというより 強度変化という方が合っているかもしれない。
2で見るように中性子星のような小さな天体では、 重力エネルギーは、核融合より多くのエネルギーを取り出すことができる。
電波パルサーは1000万年くらいたって回転エネルギーがなくなると、 もはや電波を出さなくなり我々からは見えなくなる。
またX線連星パルサーも隣の星のガスをほぼ吸い尽くしてしまうとX線を出さな くなり、やはり我々からは見えなくなる。
こうした「見えない」中性子星は多数あるが、あまりに小さいので 発見されないだろうと思われていたが、 1996年にRX J185635-3754という弱いX線天体が 単独の中性子星であるということがハッブル望遠鏡で発見された。 温度が70万度以上あり距離も400光年以下と近いのに、明るさが25等級以下と非常に暗い。 このことから星の大きさは半径11km以下であることが分かった。 こんなに小さく高温の星は中性子星しかない。


2.星のエネルギー

1.石炭 
石炭1gが燃えると9kcalの熱を生じる。(注、栄養学ではkcalのことを単にカロリーという。 人間が1日に必要なカロリーは2000カロリー程度。石炭にして200g。 ごはんも石炭も熱量的には似たようなものなので、米の水分を50%とすると、 人間は1日に 米400gぐらい食べればよい。) 石炭1kgが燃えて出す熱量は 3.6x10^7 J である。質量エネルギーの4x10^-10である。

2.重力
ニュートンが重力を定式化してから、重力エネルギーというものが定量化された。 (E = -GMm/R、Mは星の質量、Rは星の半径、mは落とすものの質量)。 ものを落とすと重力に引かれてスピードが出て落ちる。地面についたとたん摩 擦で熱に変わる。重力エネルギーを熱に変えて光ることができるわけである。
太陽の場合、落とすものの静止質量の10^-6の割合をエネルギーに変えることができる。 これだと核融合のエネルギーより小さいので、例えば太陽の3-8倍の重さの星で 最後に炭素の核融合の暴走が起こった時、 この核融合のエネルギーは重力エネルギーより大きいので、 星全体を木っ端微塵に吹き飛ばすことができる。
しかし、中性子星ともなると、Mは同じくらいなのにRが10kmと小さいので、 落とすものの静止質量の10^-1の割合をエネルギーに変えることができる。 これは核融合より効率がよい。X線連星で隣の星から降り積もって表面に たまっているガスに一挙に核融合反応が起こって爆発(X線バースト)を起こすことがある。 爆発した物質は一旦舞い上がるものの、また表面に戻ってくる。 核エネルギーでは中性子星の重力エネルギーに勝てないのだ。
隣の星から降ってくる物質も途中高温になった時点で核融合反応をするだろうが、 その程度のエネルギーでは中性子星から脱出できないので、そのまま中性子星に 落ちることになる。

3.核融合 6x10^14 J/kg
水素の核融合反応は、反応の前後で質量が0.7%減る。 この欠損でアインシュタインのE=mc^2の式により計算される量のエネルギーが出る。 主系列の星は、水素の核融合で光っている星である。 中心でのみ核融合が起こっているこの状態の星は安定しているので、 長時間(太陽の場合100億年間も)ほぼ同じ明るさで輝く。

爆発しない理由
核融合というと核爆弾を思い起こすように爆発するものである。 ではなぜ星は爆発しないのか? 同じ核反応でも原子力発電所では爆発していない。 そもそも爆発とは何か考えてみよう。

ポジティブ(正の)フィードバックとネガティブ(負の)フィードバック
核反応は温度に非常に敏感である。温度がちょっと高いと反応は非常に盛んになる。核爆弾の場合、
 1.核反応がちょっと進む。
 2.温度が上がる 。
 3.核反応がもっと盛んになる。
 4.ますます温度が上がる。3に戻る。
このように結果が原因を助長する反応が、正のフィードバックである。 このループで急激に反応が起こり爆発する。

では星ではどこが違うか。それは重力である。星の場合は、
 1.核反応がちょっと進む。
 2.温度が上がる 。
 3.星が重力に逆らって膨張する。
 4.温度が下がる。
 5.反応が治まる。
となる。結果は原因を抑えるように働く。これを負のフィードバックという。
負のフィードバックが働いているときは、反応は安定して進む。
「熱を加えると(重力逆らって膨張して)温度が下がる」という星ならではのプロセスがあるので、 星は安定して輝けるのである。

原子力発電では、核反応が進んで水の温度が上がると制御棒が深く挿入され反応が収まる。 この制御が自動的に機械で行われている。

ガスの圧力で支えられている恒星の場合は、重力による負のフィードバックが働くからよいが、
星が電子の縮退圧で支えられている白色矮星の場合には、この負のフィードバックが働かない。
白色矮星にガスが降りつもりI型超新星爆発を起こして木っ端微塵になったり、 太陽の3-8倍の重さの星で最後に炭素の核融合が起こった時に暴走して木っ端微塵になってしまうのは、この理由である。
(もうちょっと重い星では再び重力で反応を押さえつけられるようになる。)



エネルギー源 物質1kgが発生できる熱 質量エネルギーの何割か?
石炭 3.6 x 10^7 J/kg 4 x 10^-10 mc^2
重力エネルギー(太陽) 1.8 x 10^11 J/kg 2 x 10^-6 mc^2
水素の核融合 6 x 10^14 J/kg 7 x 10^-3 mc^2
重力エネルギー(中性子星) 1.8 x 10^16 J/kg 2 x 10^-1 mc^2