宇宙の科学2  8回目  2002.6.7.

1.月はなぜ落ちてこないか?
ちょうどよい速さ(1km/s)で横に動いているから、
あるいは
落ち続けているのだが、地球も丸くて地面が遠ざかるから。

<地球の丸さ>
地球は半径6400kmの球である。その曲がりは1km進むと8cm落ちる計算である。
L[m] 離れるとH[m]落ちる、あるいはH[m]のものはL[m]離れたところまで見える、とすると近似的に

 H = L^2 / (2 R)
 Rは地球の半径

で計算できる。

    L[km] H
池袋駅(1)    1 8cm
東京タワー(2)  65 333m
新座から(3)  24 45m
富士山(4)  220 3776m
飛行機  360 10km
スペースシャトル(5)  2000 300km

(1)1kmで8cmの曲がりを、大きいと思うか小さいと思うか。
(2)関東一円でテレビ電波が受信できるように高い塔を建てた。
(3)うちのマンションから東京タワーを見ると下のほうが見えない。 ひょっとして地球が丸いせいか?と思い、下が何m隠れるかを計算してみた。 45m。全体の1/7程度が地球の丸みで隠れているようだ。
(4)220kmというと志摩半島、銚子、那須のあたり。 ここより遠くでは平地からは富士山は見えない。山に登ればもっと遠くからでも見える。 福島県の日山(間に関東平野があり見通しがきく)、那智勝浦の妙法山(間に駿河湾 がある)などは、300km程度 離れているが、富士山が見えるそうである。
(5)2000kmというと日本列島くらい。スペースシャトルからは決して地球全体は見えない。


<人工衛星>
地上すれすれでも8km/sの速さで飛ばせば人工衛星になる。

<計算>
8km/sなら1/8秒間に1km進む。
1/8秒間に落ちる量は (1/2)gt^2 = 1/2 * 9.8 *(1/8)^2 = 0.08m = 8cm である。
これは地球の曲がりと同じである。

ちなみにライフル銃の弾の速さは1km/s。 人工衛星の速さはもっと速い。 スーパーマンではないが、実は宇宙飛行士は「弾丸より速く」飛んでいる。

実際問題、地表では空気の抵抗があって、すぐ遅くなってしまう。人工衛星を 飛ばしたければ、空気のない高空まで行って横にスピードアップする必要があ る。上に上がることとスピ−ドをつけること。この2つがないと人工衛星には ならない。これはシビアな話で2000年2月に打ち上げられた日本の Astro-E衛星は 1段目ロケットの故障により必要な速度8km/sに対して、わずか50m/sだけ足りず、 南太平洋に落下してしまったのである。

月は地球から遠いので重力も弱く、1km/sでよい。


2.元素の起源

<ガモフの夢>
アインシュタインの重力の方程式が膨張宇宙を示唆し、 実際にハッブルの法則が発見されて、ガモフは、 「宇宙は昔小さくて、熱い火の玉から始まった」というビッグバン宇宙を提唱した。 ガモフの夢とは「宇宙の初期、火の玉がまだ熱い時に核反応が起こり、 原初の水素から全ての元素が合成された」という説であった。 定量的な計算によりこの夢は真実ではないことが分かり夢に終わった。 ビッグバンはあまりに急激に冷えるので、 重量比で言って全物質の25%がヘリウムに変わった時点で反応が止まるのだ。 でも、これは実にラッキーなことであった。もし核反応がもっと進んで、 全ての物質が一番安定な鉄にまでなってしまったら、 もはや核融合はできず、宇宙に星は輝きはしなかったであろう。 もちろんわれわれのような生物も生まれなかったであろう。

<ヘリウムから鉄まで>
それでは、ヘリウムより重い元素はどのようにして作られたのか?
それは星の中である。 太陽の3倍より重い星では、核融合の燃えかすであるヘリウムも核融合を行い、 炭素や酸素になる。星の重さが重いと、さらに炭素や酸素も核融合を行い ネオンやマグネシウムになる。ネオンやマグネシウムはさらに核融合を行い シリコンや硫黄になる。そしてシリコンや硫黄が核融合すると鉄ができる。 (たまねぎ構造)。 星を輝かせているエネルギー源の核融合反応で、できる元素は鉄までである。
一連の反応の後半は出るエネルギーが少ないので、水素燃焼と比べると あっと言う間に反応が進む(下表)。

SN1987A (太陽の18倍の質量) の場合
反応 出るエネルギ− 反応温度 輝く時間
水素ヘリウム 600兆 ジュール/kg 1000万度 1000万年
ヘリウム炭素・酸素 60兆 ジュール/kg 1億5000万度 100万年 赤色巨星に進化
炭素・酸素ネオン・マグネシウム 50兆 ジュール/kg 5億度 1万2千年 炭素・酸素は反応が激しいので速く燃えてしまう。
ネオン・マグネシウムシリコン・硫黄 12年
シリコン・硫黄 1週間 鉄は50億度で光崩壊を始める。それがII型の超新星爆発を引き起こす。

<鉄からビスマスまで>
それより重い元素の鉄からビスマスまでは、星の中心部で 核反応により作られる。 これはSプロセス(スロ−プロセス)と呼ばれている。 水素などの核融合反応において中性子が発生する。その中性子の中には 鉄の原子核に衝突し、核反応を起こすものがある。 こうして原子核は原子量が1つづつ重くなって行く。 ある程度、中性子が多くなるとβ崩壊を起こし、原子番号が1つ上の元素に 変わる。 この反応は何万年もかけてゆっくり進むのでスロ−プロセスと呼ばれている。 ゆっくりとした反応なので安定な原子核しか最終的に生成されない。 この核反応は星の燃料としての反応ではないので、その生成量は少ない。 タングステン、金などはこの反応で作られる。

<ビスマスより重い元素>
ウランなどビスマスより重い元素は、超新星爆発で作られると考えられている。 超新星爆発の瞬間には爆発の衝撃波面など、大量の中性子が発生する領域がある。 鉄などの原子が大量の中性子を一気に吸収し、「中性子過剰核」という 状態になる。中性子過剰核は不安定なのですぐ崩壊して行き、準安定なウラン などに行きつく。

いづれにせよ、ヘリウムより重い元素は、星の進化の過程で作られ、 超新星爆発でまき散らされる。そしてガスやチリとなり、その濃い所が 重力収縮してまた星が作られるのである。
我々を作っている炭素や酸素も、何十億年か昔には燃えたぎる星の中心部にあっ たに違いない。我々は「星の子」なのである。 目の前の本棚の鉄だって一時期は、大質量星の中心の何億度という高温の中、 勢いよく飛び回っていたに違いない。「それがこんなにコチコチに冷たくなって」 としばし感慨にふけるのである。