宇宙の科学2  9回目  2002.6.14.


1.星が爆発しないわけ

7回目の下の方も参照。

<核反応>
核融合を起こすには2つの原子核を十分近くまで近づけてやればよい。
そうすると「スッ」と自発的に融合してエネルギーが出る。
そこでどうやって近づけるかであるが、問題となるのは電気力(クーロン力)である。
プラスとプラスは反発するので、しかもクーロン力は重力と同じく1/r2の依存性を持つので、
近くに行くと力はとても強くなる。この強大な力に打ち勝って近づけてやらなければならない。
加速器などで、加速して正面衝突させるという方法もあるが、こんな精巧なことはやってられない。
一番簡単なのは「温度を上げる」ことである。温度とは気体の分子の動く速さであるから、
温度を上げていけば分子のスピードも上がる。分子はランダムに運動していてしょっちゅう衝突を繰り返している。
温度一定といっても速い分子と遅い分子がある。物理学ではボルツマン分布をしているという。
運良く速い分子と別の速い分子が正面衝突すると核反応をするわけだ。
これを熱核反応という。
速い分子のみ反応すればいいので、温度が低くてもそれなりの核反応が起こる。
密度をあげると衝突頻度も上がるので効果的である。
よって温度をあげ密度を上げると核反応が進む。
地上の核融合炉では1億度を目指しているが、太陽の中心では1500万度で核融合が進行しているのは、
密度が高いからである。


<核爆弾の場合>
核反応は温度に非常に敏感である。
1.反応して熱が出る。
2.温度が上がる。
3.温度が上がるとますます反応が盛んになる。
4.温度がますます上がる。
5.3に戻る。

という正のフィードバックが働いて、一気に反応が進んでしまう。
つまり爆発する。

<恒星の場合>
1.反応して熱が出る。
2.星が膨張する。
3.温度が下がる。
4.反応が収まる

という負のフィードバックが働いて、反応が抑えられる。
2の重力の働きで爆発しないのである。
一気に反応が進むと、核融合のエネルギーのほうが恒星の重力エネルギーより大きいのでl、
星は爆発して飛び散ってしまう。I型の超新星はこの場合である。
ところが主系列星の核反応では負のフィードバックが働き、炭火のようにぶすぶすと小さい火力で燃え続ける。
よって、たとえば太陽では100億年もほぼ同じ明るさで輝き続けることができるのである。


2.太陽の核融合
水素の核融合では4つの水素原子が合体して1つのヘリウム原子になる反応であるが、実際に
 4H → He
という反応が起こっているわけではない。
この反応が起こるには4つの水素が一度にぶつからなければならないが、そんなことはめったに起こらない。
太陽で主に起こっている核融合はppチェーン(陽子陽子連鎖反応)と呼ばれている一連の反応である。

pp連鎖反応
    p(水素)   
1.2個の陽子がぶつかって重水素になる。この時、陽電子とニュートリノが出る。
  陽電子は周りの電子とぶつかって消滅し、ガンマ線になる。ガンマ線は周りの電子に吸収され熱に変わる。
  ニュートリノは非常に反応しにくいのでそのまま宇宙に抜け出る。
            ←p
     pn(重水素)
2.重水素に陽子が融合する。ヘリウム3になる。ガンマ線が出る。
            ←p
     ppn(ヘリウム3)
3.ヘリウム3同士が衝突してヘリウム4(普通のヘリウム)になる。
            ←ppn
     ppnn(ヘリウム4)  p   p

結局4つのpが1つのヘリウム4に変わっている。

1つ1つの反応が、たとえば温度が2倍になると2倍盛んになる。速い分子が増えるので反応率が上がるのである。
反応1が2倍盛んになると重水素が2倍できる。
反応2では、材料の重水素が2倍あり、反応率も2倍なので、4倍のヘリウム3ができる。
反応3では、ぶつかられるヘリウム3が4倍あり、ぶつかるヘリウム3も4倍あり、反応率は2倍になっているので
ヘリウム4は32倍できる。
温度は2倍にしかなっていないのに核反応は32倍(2の5乗)にもなる。
このように核反応は熱に非常に敏感である。

pp連鎖反応にはヘリウム3の先にBe7、Li7を経由する反応、Be7、Be8を経由する反応もある。

重い星ではCNOサイクルといって炭素窒素酸素を触媒のように利用して水素をヘリウムに変える反応が
主に起こっている。CNO反応の方が多段で温度に非常に敏感であるので、2000万度以上では
CNOサイクルのほうがpp連鎖反応より盛んになるのだ。



3.赤色巨星が巨大なわけ

7回目の1の赤色巨星の項、参照。


4.天の川

我々が見る天の川は、地平線から上り、上のほうを通り、ほぼ反対側の地平線に流れている。
1本の川のように見えるが、実は地面の下でも続いていて、出た側の地平線に戻る。
中でも夏に見える天の川(いて座のあたり)は濃い。逆に冬に見える天の川(オリオン座のあたり)は薄い。
これは銀河系の中心がいて座の方向にあるからである。
銀河系の中心を真ん中に、天の川を赤道にとった座標を「銀河座標」という。
には、いろいろな波長で見た天の川を示す。
近赤外線では、銀河系の中心あたりの星の集まり(バルジ)が見えている。
バルジの星は古い質量の軽い星の集まりで、表面温度が低いので近赤外線を多く出している。
逆に可視光で見る天の川は、太陽の近くにある若い大質量の星が主である。
表面温度が高いので可視光や紫外線を多く出している。

右下にはNGC 891という銀河を示した。ちょうど横から見ている銀河で、天の川によく似ているのが分かるだろう。

我々の銀河系は(棒)渦巻き銀河で、差し渡しは10万光年。約2000億個の星からなっている。
太陽は中心から3万光年離れたところにある。
中心部の膨らんだところはバルジと呼ばれ、古い星の集まりである。直径1万5千光年のほぼ球形をしていて、
そこの星は銀河中心のめいめい周りを回っている。
太陽のあるところは銀河円盤で厚みは3000光年程度である。銀河円盤の星は上下しながらほぼ平面上を銀河中心の周り
を回っている。渦巻銀河には腕と呼ばれる明るく見えるところがあって、
太陽も現在はその腕の1本の「オリオン腕」の中にいる。「オリオン腕」の内側に「いて座腕」、外側に「ペルセウス腕」が
ある。腕の太さはやはり3000光年くらい。我々が肉眼で見る明るい星は、遠い方のベテルギウスでも500光年だから、
オリオン腕の一部に過ぎない。


5.ドレークの式

我々の銀河系には約2000億個の星がある。この中に、人類のような知的文明を持った星は何個あるのであろうか?
その問題を最初にまじめに考えた人にドレーク氏がいる。1960年ごろ提唱したドレークの式が有名である。
今では宇宙の歴史に対する知識、生物に関する知見、地球に対する知識が当時よりずいぶん進んだ。
この式に異論は多々あるところだが、考え方の1つとしてドレークの式を示しておこう。

我々の銀河系にこの瞬間に存在する知的文明の数Nは次の式で与えられる。
 知的文明とは電波技術を持ち電波通信ができるという意味である。人類が電波技術を手に入れてからはまだ100年
しかたっていない。
 ここでは定常状態を考えている。一方で文明が生まれ、一方で寿命のきた文明が滅んでいる。しかしその総数は一定である
ような状態である。

R。(rate)
まず1年間に生まれる恒星の数をRとする。銀河系には2000億個の星がある。
これがビッグバンからこのかた200億年間にできたとすると
R = 2000億/200億 = 10
年間10個の恒星が生まれる勘定になる。

fp。(fraction of planets)
そのうち惑星系を持つものの割合。
連星系だと惑星が安定に存在できないかもしれない。
fp = 0.5 としよう。

ne。(number of earths)
その惑星系にある地球型惑星の数。
太陽系の場合、地球と火星と考えて
ne = 2 としよう。

fl。(fration of life)
その地球型惑星で生命が生まれる確率。
これはよく分からないが、無機物のスープで雷が飛ぶと有機物ができるそうだから、
fl = 1 としておこう。

fi。(fractionof intelligence)
その生命が知性を持つ割合。
アメーバから猿とかまで進化する確率。
これも分からないが、
fi = 0.1 としよう。

fc。(fraction of communication)
猿が通信技術を持つまで進化する確率。
まあ、猿までくればそのうち進化して通信技術を身につけるであろう。
fc = 1 とする。

ここまでで年間何個の文明が生まれるかが計算できる。

R fp ne fl fi fc = 10 × 0.5 × 2 × 1 × 0.1 × 1 = 1

というわけで、年間1個の文明が生まれている計算になる。

ではこの瞬間何個の文明があるかということになると、
この文明が何年生き延びるかがかかわってくる。

L。(life)
文明の寿命。
電波通信技術を発見してから文明が滅びるまで何年か?

以上をかけあわせて、
N = R fp ne fl fi fc L
これがドレークの式である。

L = 100年 今すぐ核戦争が起こって文明が滅ぶ場合。  N = 100個。  20億個に1個
L = 1万年 古代文明ができてから今までの間くらい。  N = 1万個。  2000万個に1個
L = 1億年 恐竜と同じく1億年間栄える場合。  N = 1億個。  2000個に1個
L = 50億年 太陽が燃え尽きるまで。  N = 50億個。  40個に1個

これらの数字を多いと思うだろうか? 少ないと思うだろうか?

<どのあたりまで通信できるか?>
では現実問題としてどのくらい遠くまで通信できるのであろうか?

地球のTV局が1メガワットの大出力で放送しているとしよう。それを今地球にある最大の電波望遠鏡
(直径100mのパラボラアンテナ)で最高の受信機を使って受信するとしよう。どのくらいの距離まで届くか?
1.3光年である。隣の星までは届かない。
もしアルファ・ケンタウリに地球程度の文明があっても我々にはわからないのである。
もちろん我々の電波歴100年に比べれば相手の星はずっと進化している可能性が高いので、
もっと桁違いに強い電波を使っているかもしれない。すると我々にも受けるチャンスはある。

では、お互い位置が分かっていて、送信側も直径100mのパラボラアンテナで地球めがけて送信したとしよう。
すると3000光年まで届く。だいたいオリオン腕の幅くらいの球内である。
これなら近くの星とは通信できそうだ。
しかし向こうの星が地球めがけて電波を発信してくれていたら、である。
ちなみに半径3000光年の球内に星は3億個ある。
ドレークの式でL=1万年をとれば、この範囲内に15個の文明がある計算になる。
向こうの文明は3億個の中から地球めがけて電波を送ってくれただろうか?

また銀河系の中心(10万光年)までは現在の技術ではぜんぜん届かないことも分かる。

宇宙文明を確かめるには、未熟な地球の技術で弱い電波を送って何千年後の返事を待つより、
進んだ文明が何千年か前に強い電波を送ってくれたことを期待して、今、耳をすませる方が
得策であることもわかろう。