宇宙の科学2 10回目 2002.6.21.
前回の補足.
地球外惑星の発見
1995年に最初の地球外惑星がペガサス座51番星に発見されて以来、
地球外惑星の発見が相次いだ。
2000年の12月の段階では50個も見つかっている。
ペガサス座51番星は木星の0.6倍もの大質量の惑星が水星軌道の1/8ほどの軌道を
わずか4.2日で回っているという予想外の惑星であった。
すでに測定技術はあったのだが、誰もそんな惑星があるとは予想していなかったので、
そんな短周期で調べようとしなかったのである。
それが、一旦そんな惑星があることが分かると一気に観測するので、どっと見つかったわけだ。
検出方法は、視線速度法という。
惑星の公転により中心の恒星がわずかではあるが振り回される。
この動きを恒星の光のドップラーシフトを調べることで検出するというものだ。
というわけで、恒星の近くにある大質量の惑星が発見されやすい。
太陽系の場合はどうかといえば、最大の惑星である木星によって振り回される効果が一番大きい。
太陽は、太陽−木星の重心の回りを半径73万km程度の軌道で12年で1周する。
これは太陽の半径くらいであるので、結構大きい。でも12年でやっと1周するので、
速さはたった毎秒12mである。(計算)
太陽表面の自転の速さ毎秒2kmであるのに比べるとの 170分の1である。
太陽からの吸収線は最初からこの程度広がっているので、
その中心を1000分の1の精度で測るのは結構大変である。
地球外惑星の検出方法には、前面通過法もある。これは惑星が恒星のちょうど手前
に来て恒星の一部を隠す時に恒星の光が減光するのを測る方法である。
将来的には直接惑星を恒星と分離して見ることもできるようになるであろう。
1.銀河
<写真技術>
天体写真が1860年ごろ発明され、目に見えないような天体も誰にでも「見
える」ようになってきました。人間の目は肉眼では6等星までしか見えませ
ん。これは1秒間に1万個の光子が目に入ってくるような明るさです。また
動画なので残像(1秒程度)より前の画像はなくなってしまいます。望遠鏡
では一度に一人しか見れないので、ある人が見たものを他人が確認すること
はできません。スケッチで明るさや形などを記録するとしてもその人の主観
が入ってしまいます。それが写真であれば、1秒間に1個しかこないような
弱い光でも、1分間でも1時間でも同じ印画紙の上に露光することで「見る」
ことができます。また、他の人があとで顕微鏡を使って正確に位置を求めた
りじっくり明るさを測ったりもできます。1年前の写真を取り出して比較す
ることもできます。肉眼から写真に変わったことは、感度が上がっただけで
なく、客観性や定量性が向上するという本質的な変化でした。
大きな望遠鏡も作られるようになってきました。1862年には白色わい星であ
るシリウスの伴星も発見されました。スペクトルの研究も進みました。
現代の宇宙観にがらりと変わったのは1929年にハッブルの法則が発見されて
からといってよいでしょう。無限の過去から無限の未来まで恒久不変に存在
する宇宙から、150億年前に大爆発で始まった宇宙に変わったのですから。
すばる望遠鏡によるM63 大望遠鏡+CCD
ハッブル宇宙望遠鏡によるArp188 (UGC10214)
4億2千万光年。宇宙中望遠鏡+CCD
今年3月に取り替えたばかりの新型カメラによる画像。今までの約10倍の性能。
<宇宙の広がり:渦巻星雲は銀河星雲か島宇宙か>
大望遠鏡と写真技術が発達すると、数多くの渦巻星雲が見えてきました。
星雲星団のリストとしては1771年メシエが彗星と紛らわしい星雲星団をリス
トアップしたメシエカタログが有名です。
それには108個の星雲星団が載っています。
その中には今でいう、超新星残骸(1個)、散光星雲、散開星団、球状
星団、銀河(38個)がごちゃまぜで入っていました。ところが写真ができると
星雲星団の数が一気に増え、1888年に作られたNGCカタログには7840個もの星
雲星団が1895年のICカタログにはさらに5386個もが載っています。これらの
中にあるのは大多数が銀河です。当時は渦巻き型の星雲ということで渦巻星
雲と呼ばれました。この渦巻星雲はどこにあるのだろうというのが1920年の
シャプレーとカーチスの大論争でした。シャプレーは、渦巻星雲は球状星団
と同じく銀河系内の星雲であると主張しました。カーチスは、渦巻星雲は銀
河系の外にありわれわれの銀河系と同じような銀河(恒星の集まり)である
と主張しました。この論争に決着をつけたのが渦巻星雲に現れた新星でした。
この新星はわれわれの銀河系内のものに比べて1万分の1の明るさしかあり
ませんでした。もともとの明るさが同じとすると100倍距離が遠いということ
です。そうするとわれわれの銀河系の外側の天体であるということになりま
す。こうして渦巻星雲は銀河であるということになりました。もっともその
時、渦巻星雲に現れた新星は、今で言う超新星でした。よって本当の距離は
もっと遠かったのです。
池谷−張彗星とアンドロメダ銀河
<距離を教えるセファイド変光星>
1908年セファイド変光星
というもので距離が測れることが発見されました。この変光星は星自身の大き
さが変わって明るさを変えるタイプの変光星です。この種の変光星には何種類
かありますが、直線的に速く立ち上がって直線的にゆっくり落ちるという光度
曲線で他と区別できます。ケフェウス座デルタ星型に代表されるのでセファイ
ド変光星と呼ばれます。ケフェウスとセファイドでは全然違うじゃないかと思
われるかもしれませんが、ギリシャ語読みと英語読みなので気にしないでくだ
さい。セファイド変光星は明るい星では周期がゆっくりになるという性質があ
ります。この性質を使うと変光の周期を測ることで本当の明るさが分かるので
す。本当の明るさと見かけの明るさを比較することでこの星がどのくらい遠い
のかが分かります。セファイド変光星は太陽の約1000倍も明るいので遠くから
でもよく見えます。当時最大のウィルソン山の1.5m望遠鏡を使って、ハッブル
はアンドロメダ銀河の写真を撮りました。ガリレオ・ガリレイが望遠鏡を使っ
て天の川は暗い星の集まりであることを発見したように、大望遠鏡で写真を撮
るとアンドロメダ銀河も暗い星の集まりであることがわかります。あんまり暗
い星は星雲と区別がつきませんが、明るい星は1個1個分解することができま
す。ハッブルは何十枚もの写真を比べて何個かセファイド変光星を見つけ、周
期を測りました。そうしてアンドロメダ銀河は銀河系の外側にあることが明ら
かになりました。こうしてアンドロメダ大星雲は
アンドロメダ銀河
と呼ぶようになりました。ハッブルの値は不正確でしたが、同じ方法により今
ではアンドロメダ銀河の距離は230万光年だと求められています。
ハッブルの名前を採ったハッブル宇宙望遠鏡は、遠くの銀河のセファイド変
光星を探し、その銀河までの距離を測ることを目的の1つとしています。こ
うして今では距離1億光年まで代表的な28個の銀河の距離が求められていま
す。宇宙の果てまでの1%くらいまでセファイド変光星の方法で測られてい
るわけです。
<ハッブルの法則>
ハッブルは銀河の写真を撮っただけでなく、銀河のスペクトルも撮りまし
た。太陽光をプリズムで7色に分解した経験はみなさんお持ちでしょう。あ
れと同じことを銀河に対して行いました。7色の写真を撮ることを、スペク
トルを撮るといいます。銀河も太陽みたいな恒星の集まりですから似たよう
なスペクトルが得られます。ただとっても暗いですが。太陽のスペクトルの
中にはカルシウムなどの吸収線が一杯見られることは1815年のフラウンフォー
ファーの研究から分かっていました。では銀河のスペクトルから何がわかる
のでしょう。銀河の動くスピードもその1つです。ドップラー効果により銀
河がこっちに近づいていると吸収線の位置が青いほうにずれます(青方偏移)。
遠ざかっていると赤いほうにずれます(赤方偏移)。ずれる量が大きいほど
速いスピードだということです。まず、アンドロメダ銀河は青いほうにずれ
ていました。毎秒120kmで近づいてきていたのです。他の銀河も測りました。
1914年、合計13個の銀河を測り終えた段階では11個が赤方偏移でした。もし
ランダムに動いているなら青方偏移、赤方偏移が半々のはずです。1925年に
は45個の銀河を測り、実に43個が赤方偏移でした。
1929年にはセファイド変光星の方法で距離のわかった19銀河について距離と
赤方偏移量の関係を書いてみました。すると遠い銀河ほど速いスピードで遠
ざかっていました。ハッブルは散らばるデータの真ん中へんに直線を引き
v = H0 d と書きました。遠ざかる速度vは銀河までの距離dに比例しているとい
う意味です。これがハッブルの法則です。H0(エイチゼロ)は比例定数で
ハッブル定数と呼ばれます。(HはハッブルのH、0は「現在の」という意味。)
遠いものでは遠ざかる速さは毎秒1000kmにも達していました。渦巻銀
河の回転速度は、例えば太陽が銀河系の中心の周りを回る速さは毎秒220kmで
すから、それの5倍も速い速度で、銀河ごとふっとんでいたのです。その後観
測が進み、ハッブルの法則はもっと遠いものまでなりたっていることが確かめ
られました。1935年には150個の銀河で測定され最も速いのは秒速4万km、1950
年代には秒速10万kmの銀河も見つかりました。こうなると超新星爆発の10倍の
スピード、光速の1/3です。こんな速さで銀河全体が動いているのは尋常では
ありません。「銀河が動いている」と考えるより、「空間が動いていて銀河は
その空間の中で静止している」と考える方が自然です。いまでは
光速の99%の速さで遠ざかる銀河(赤方偏移=6)
も発見されています。
ハッブル定数はその後いろんな方法で求められ、現在では72±12km/s/Mpc
となっています。1Mpcつまり326万光年離れるごとに72km/sづつスピードが
速くなるという意味です。
<ハッブルの法則の意味> 次回